特集
Special Feature Article

特集

プレビュー 2026.08.07
シンポジウム2026特別企画
塩分と健康寿命のちょうど良い関係は? 体と心を「フレイル」から守る最新研究
塩分とフレイルの関係について、大学の先生が講演するソルト・サイエンス・シンポジウムの紹介についてのイメージ画像

健康を維持するには、適切な塩分摂取が大事です。近年の研究では、健康寿命延伸の大敵である「フレイル」と塩分の間に、意外なつながりが見えてきました。適切な塩分摂取を考えるうえで、過剰と欠乏がそれぞれもたらす影響について、先生方から伺った話をもとに理解を深めてみましょう。

目次
  1. 体と心のフレイルケアと塩分の関係は?
  2. 適切な塩分摂取は筋肉や骨のフレイルケアに関係する
  3. お口の中の塩分バランス維持が歯の保全に
  4. 低ナトリウム血症の改善が心のフレイル抑制につながる
  5. 塩分と健康寿命の関係が分かるシンポジウム
  6. ソルト・サイエンス・シンポジウム2026のご案内

1 体と心のフレイルケアと塩分の関係は?

2 適切な塩分摂取は筋肉や骨のフレイルケアに関係する

発明家
低ナトリウム血症は、血液中のナトリウム濃度が低すぎるときの体の状態なのよね。
助手
言い換えると、“水分量とナトリウム量のバランスが崩れると低ナトリウム血症が引き起こされる”とも表現できますね。たとえば、暑いからといって水分を“がぶ飲み”すると低ナトリウム血症になってしまうことがあります。
また、自分はそれほど多くの水分を摂取したつもりがなくても、汗や尿による排出量が低下していれば低ナトリウム血症が引き起こされることがあります。
ロボット
低ナトリウム血症の原因はさまざまなケースがあるようです。
発明家
低ナトリウム血症って、意外に身近な症状なのね。
助手
本人が自覚しない慢性的な低ナトリウム血症の状態の可能性もあるそうです。また、高齢になるとナトリウムが腎臓から失われやすくなるという報告もあります。一般的に、認知症状や身体機能の低下などにも関連するとされていて、転倒による怪我のリスクも懸念されます。
発明家
高齢になったら怪我一つでも、生活に支障が出てしまうものね。けれど原因はさまざまだと。
助手
そうなんです。最近はさまざまなアプローチから研究が進んできています。
内分泌・糖尿病の専門医でもある梶 博史先生の研究によると、慢性低ナトリウム血症を放置すると、骨が脆くなると同時に骨格筋が衰えてしまう可能性があるそうなんです。
ロボット
骨格筋とは、体を動かすために意識的に動かせる筋肉、ともいわれています。梶先生は、骨と骨格筋が互いに影響を及ぼす「筋・骨連関」という現象に早くから注目してきた研究者です。
助手
梶先生によると、骨密度が低下する骨粗しょう症と、骨格筋量と筋力が低下するサルコペニアは相互に作用しているそうです。
簡単に言えば、骨の状態が悪化することは骨格筋に悪影響を及ぼす一方、骨格筋が衰えれば骨の状態も悪くなるというわけです。こうした負の「筋・骨連関」を強化してしまう要因の一つとして、梶先生は慢性低ナトリウム血症に注目したのです。
ロボット
骨粗しょう症とサルコペニアは、どちらもフレイルと密接な関係にある病気です。
発明家
むむむ……。慢性低ナトリウム血症の影響は、一時的とは限らないのか。
助手
そうした懸念を確かめるために梶先生が実施したのが、マウスを使う実験です。この実験で、血中ナトリウム濃度を持続的に低い状態にしたマウスと通常のマウスについて、骨や骨格筋の状態を調べました。
すると、通常のマウスに比べて、慢性低ナトリウム血症を模したマウスは、大腿骨の骨量・骨密度や握力の強さが低下しており、骨や骨格筋が弱くなっていることが分かったのです。
ロボット
報告書によると、梶先生は慢性低ナトリウム血症を模したマウスに塩水(濃度1%)を与えて飼育すると、骨や骨格筋の状態が回復することまで確認しています。
発明家
なるほど。健康を維持するには、塩の適量摂取も大事な観点ということね。それじゃあ、慢性低ナトリウム血症が負の「筋・骨連関」を強めてしまうメカニズムも分かっているのかしら?
ロボット
もともと、骨格筋から分泌されるマイオカインという因子が、骨代謝に影響を及ぼすという研究があります。
助手
今回、梶先生もそこにフォーカスし、慢性低ナトリウム血症に伴って血中濃度が低下するマイオカインとして、IGF-1(Insulin-like Growth Factor 1)とDel-1(Developmental endothelial locus 1)というものがあり、低ナトリウム血症では、ともに減少してしまうことを突き止めたんです。
IGF-1は、いわゆる成長ホルモンの作用を担うタンパク質としてよく知られています。梶先生は、IGF-1と慢性低ナトリウム血症の関連は研究前から想定していたと言います。一方、Del-1は機能が十分に解明されていないタンパク質なので、慢性低ナトリウム血症との関連は意外な発見だったそうです。
これらのタンパク質を指標にすれば、フレイルの進行に先んじて、慢性低ナトリウム血症に適切な対処ができるかもしれません。
発明家
まとめると、低ナトリウム血症により「筋・骨連関」のIGF-1 とDel-1の濃度が減少して、筋肉や骨の量の減少につながる、ということね。
ロボット
塩分投与で回復した結果から、塩分バランスの乱れが筋肉量と筋力の低下を引き起こしてしまうこともお忘れなく。
発明家
サルコペニアや骨粗しょう症などからくるフレイルのケアについての新戦略につながる兆しがあるのね! とはいえ、フレイルのケアにはさまざまな要素が複雑に絡み合っているだろうし、多方面からも検討が必要ね!
助手
疑問を持って立ち止まることは研究において大切なことですね(自分の発明になると猪突猛進なんだけど)。
ロボット
「ナゼ?」という問いは大切だとインプット済みです!
梶 博史先生のプロフィール写真 梶 博史先生のプロフィール写真
アドバイスをくれた研究者
梶 博史 先生

プロフィール:近畿大学 医学部 再生機能医学 主任教授。神戸大学大学院 医学研究科 糖尿病・内分泌内科学 客員教授。医師としての専門領域は、内分泌・糖尿病内科。骨と骨格筋の相互作用に「筋・骨連関」と名付けた。いくつもの重要なマイオカインを発見したことで知られる。宇宙空間における骨量低下のメカニズム解明に関わったこともある。

公式紹介ページはこちら
(外部サイトに遷移します)

3 お口の中の塩分バランス維持が歯の保全に

ロボット
歯や口、つまり口腔は、食べる、話すなど人には欠かせない機能を司る器官ですね。
発明家
私の祖父母もよく食べてよく話すことが大好きだから、歯のフレイルケアには興味があるな。虫歯の原因はミュータンス菌だって聞いたことがあるけど。
助手
そうですね。あと、口腔内の健康を脅かす細菌といえば、歯周病の原因とされる数種類の嫌気性菌がよく知られています。ただ竹下先生によると、口腔内にはそれ以外にも数百種類もの常在菌が生息していて安定な微生物生態系を形成しているそうです。
発明家
えっ! 口の中にはそんなにたくさんの菌が住んでいるのね。
ロボット
口腔常在微生物叢(こうくうじょうざいびせいぶつそう)とか「口腔フローラ」と呼ぶそうです。
助手
竹下先生は、その口腔フローラに注目して研究をされています。近年は、口腔フローラ全体の細菌構成と健康との関わりについての研究が進められていて、虫歯や歯周病にかかわる構成パターンが判明してきているそうです。
ロボット
竹下先生はこれまでの研究の中で、虫歯菌や歯周病菌を取り巻くたくさんの常在細菌のなかにも、歯の病気と関連する「疾患関連常在細菌群」と「健康関連常在細菌群」がいることを提唱しました。この二つの常在細菌グループの構成バランスと歯の健康状態との関連があることを報告していて、常在細菌の構成バランスの改善を、新たな予防歯科アプローチで目指しているそうです。
発明家
つまり、病気に関連する常在細菌たちを抑えつつ、健康にかかわる細菌たちを応援するには、どうすれば良いのか考えればいいのね。
助手
そうなんです! 特に、口腔内フローラに食品成分が与える影響は無視できません。中でも、竹下先生が注目している食品成分の一つが塩分です。
発明家
塩分はおいしい食事に欠かせないし、毎日摂取するものね。けれど、食事はすぐに飲み込んでしまうし、影響を調べるだけでも大変そうね。
助手
そこで竹下先生は、地域で行われた歯科健診の時に唾液を集めて、口腔フローラの細菌構成と毎日の塩分摂取量との関係を調べたとのことです。
集めた唾液から細菌のDNAを抽出して、塩基配列を大量に解読できる次世代シーケンサーという装置で分析することで、参加された方全員分の口腔フローラの構成を決定しました。
それぞれの方の塩分摂取量の情報を重ね合わせて細菌構成との関連を分析してみると、男性では塩分摂取量が多いグループは少ないグループよりも、口腔内フローラにおける常在細菌の構成バランスが悪い傾向があることが分かったと、竹下先生は説明しています。
ロボット
差が現れたのは「健康関連常在細菌群」の構成比ですね。具体的には、塩分摂取量が最多のグループは、「健康関連常在細菌群」の構成比が低い一方、虫歯や歯周病に関連する細菌および「疾患関連常在細菌群」の構成比が高かったとのことです。
助手
歯科健診の結果で口の中の状態を比較してみても、男性の場合、塩分摂取量が最も多いグループは塩分摂取量の最も少ないグループよりも歯数が少ない傾向がみとめられたそうです。
発明家
こうして見ると、口腔内の健康と塩分の摂取には、何らかの関係がありそうね。
助手
そうなんです。この研究では、予防歯科の新しい可能性を開拓したことがユニークなポイントです。
発明家
塩分はポピュラーな食品成分だし、今後の掘り下げが気になるわね。お話を聞いて、発想の転換がもたらした閃きと地味にも感じる実地調査の両面が大切なことを再認識できたわ。
ロボット
お疲れのようですので、甘塩っぱさがヤミツキになる特製ドーナッツでもいかがでしょう!
助手
食べた後は歯磨きを忘れずに!
竹下徹先生のプロフィール写真 竹下徹先生のプロフィール写真
アドバイスをくれた研究者
竹下 徹 先生

プロフィール:九州大学大学院 歯学研究院 口腔保健推進学講座口腔予防医学分野 教授。歯科医師としての専門領域は予防歯科。口腔内フローラ研究のパイオニア。口腔内での働きがほとんど分かっていない口腔常在微生物の機能を、疫学調査とデータサイエンス的アプローチで解明している。

公式紹介ページはこちら
(外部サイトに遷移します)

4 低ナトリウム血症の改善が心のフレイル抑制につながる

発明家
塩分摂取のバランスが体に起こす影響は理解できてきたわ。いつまでも健やかな生活を送るには、体だけでなく心の健康も大事よね?
ロボット
人間はロボットのようにOS(オペレーションシステム)を簡単に換えることはできないですもんね!
助手
おっしゃる通りです! 実は、塩分摂取のバランスが健康に与える影響については、心理学や神経学の観点からも研究が進んでいます。
藤沢先生の研究によると、マウスやラットを使った研究により、慢性低ナトリウム血症が精神症状を引き起こす可能性が見えてきたのです。
発明家
そんなことまで分かっているのね。でも、マウスやラットを使った実験で精神症状が分かるのかしら?
助手
藤沢先生は、10年以上にわたって慢性低ナトリウム血症を研究してきました。これまでにも、慢性低ナトリウム血症が歩行障害や記憶障害につながることを、マウスやラットを使った研究で明らかにしているんです。
この研究で、慢性低ナトリウム血症のラットモデルは実験装置の壁際にとどまっていたことから、不安様行動が引き起こされている可能性に注目したと、藤沢先生は言います。
ロボット
ただし、マウスやラットの不安様行動は、人間の不安症状と同意義ではないという点に注意が必要です。
助手
さらに、藤沢先生の所属する藤田医科大学の研究グループにより、高齢者の抑うつ症状に軽度の低ナトリウム血症が関連している可能性が報告されていました。
発明家
仮説としては、慢性低ナトリウム血症が精神症状につながる可能性が示されていたというわけね。じゃあ、藤沢先生はどんな研究でそれを確かめたの?
助手
藤沢先生の場合、慢性低ナトリウム血症を模したマウスで2種類の行動観察の実験を行いました。
一つ目が、オープンフィールド・テストです。40×40センチメートルの箱に入れたマウスについて、全移動距離、立ち上がり回数、中央付近に滞在した時間を観察しています。
二つ目が、明暗選択テストで、明るい箱と暗い箱を連結した装置を使って、マウスの行動を観察しました。それぞれの箱を往来した回数、移動距離や滞在時間をそれぞれ観察したのです。
ロボット
オープンフィールド・テストでは、マウスに不安様行動が引き起こされていれば、箱の中央部での滞在時間が減少します。一方、明暗選択テストでは、不安様行動が引き起こされると、明るい箱での移動距離や滞在時間が減少すると同時に、明るい箱と暗い箱の往来回数も減ります。
発明家
なるほど。不安様行動の状態だと狭くて暗い場所に留まるのね。人の不安とは異なるけれど、うずくまっていたほうが安心する、と捉えられるわね。
助手
その通りです。今回の研究ではさらに興味深いことが明らかになっています。慢性低ナトリウム血症のモデルマウスを健康な状態に戻した後、同様の実験を行ったところ、行動観察の数値は、元から健康なマウスと比べてほとんど差がなかったそうです。
発明家
それはすごいわね。血中ナトリウム濃度を正常な数値に戻せば、慢性低ナトリウム血症が引き起こした不安な状態を改善できる可能性があるのね。
ロボット
この実験結果から、電解質調節機能が低下していることの多い高齢者や、低ナトリウム血症を誘発する利尿薬などを服用している場合は、「極端な塩分制限は控えるべきであると考えられる」という結論を、藤沢先生が報告しています。
発明家
なるほど。要するに、体だけでなく心の健康を保つには、適切な塩分摂取が必要なことが実証されたのね。
助手
そうなんです。慢性低ナトリウム血症とフレイルの関連を、心の側面から明らかにしたとも言えます。
こうした実験結果について、藤沢先生はメカニズムの解明も進めています。実験に使ったマウスの脳を調べると、扁桃体に含まれているセロトニンやドーパミンといった脳内化学物質が減少していることが分かりました。これらの脳内化学物質が欠乏すると、不安が引き起こされることはよく知られています。
発明家
扁桃体といえば、人の不安や恐怖などの感情との関係が知られているね。確かに影響がありそうだね。
ロボット
藤沢先生は、慢性低ナトリウム血症とフレイルの関連を直接明らかにする調査も行っています。
助手
この調査では、物忘れ外来を受診した70歳以上の男女4,204人について分析したそうです。その結果、慢性低ナトリウム血症が重度のフレイルに陥る確率を高める可能性があることが分かりました。今後の研究について、藤沢先生は「慢性低ナトリウム血症と認知症の関連を調べていきたい」と語っています。
発明家
また違うアプローチで、フレイルケアの糸口を探っているなんて、同じ研究を志すものとして、頭が下がるわ。
ロボット
思いつきました! 夕食は、気分が上がって物忘れ改善にもつながる具だくさんお味噌汁にします!
藤沢治樹先生のプロフィール写真 藤沢治樹先生のプロフィール写真
アドバイスをくれた研究者
藤沢 治樹 先生

プロフィール:藤田医科大学医学部講師。医師としての専門領域は、内分泌代謝・糖尿病内科。大学院時代から慢性低ナトリウム血症の研究に取り組んできた。これまでに、慢性低ナトリウム血症が体や認知の機能低下につながることを発見したほか、精神症状との関連についてもメカニズム解明を進めている。また、低ナトリウム血症の補正時に起きる「脱髄」のメカニズムについても研究を行っている。

公式紹介ページはこちら
(外部サイトに遷移します)

5 塩分と健康寿命の関係が分かるシンポジウム

6 ソルト・サイエンス・シンポジウム2026のご案内

ソルト・サイエンス・シンポジウム2026のご案内用リーフレット

ソルト・サイエンス・シンポジウム2026へのご参加・お申し込みはこちらをクリックしてください。

講演内容 (講演順)
健康寿命に重要な骨・筋肉と塩分不足
講演者: 梶 博史 近畿大学医学部 主任教授
座 長: 森田 啓之 東海学院大学 教授
低ナトリウム血症の脳への影響
講演者: 藤沢 治樹 藤田医科大学医学部 講師
座 長: 富永 真琴 名古屋市立大学 なごや先端研究開発センター 特任教授
食塩摂取と口腔常在微生物叢および歯と口の健康
講演者: 竹下 徹 九州大学大学院歯学研究院 教授
座 長: 森田 啓之 東海学院大学 教授