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レビュー 2026.06.09
2023-2025年度
食品製造における塩類活用の最新トピックス|食品科学分野での助成研究
食品製造における塩類活用の最新トピックスのイメージ画像

ソルト・サイエンス研究財団は、食品科学分野での助成として食品生産における塩類の活用法探索や、健康で豊かな食生活への指針となる塩類の作用解明をテーマとする研究に支援を行っています。本記事は、2023-2025年度助成研究の中から興味深いテーマとして松本美鈴先生に選定していただいた食品製造における塩類活用に関する研究のレビューです。
食生活改善が期待できる新規な食塩、また食品の調理や加工、保存において塩類を効果的に使う新たな方法の開発にチャレンジする研究を紹介いただきました。

目次
  1. 食品製造分野における塩類活用に関する研究について
     レビューワー 元大妻女子大学大学院教授 松本美鈴

1 新しい食用塩の開発および塩類の新たな活用につながる研究

■アミノ酸ハイブリッド型食塩が発酵食品成分組成・生物活性プロファイルに与える影響に関する研究
(2023年度助成、早稲田大学理工学術院先進理工学部 化学・生命化学科 教授 中尾洋一)

適度な塩味は食事のおいしさに寄与します。一方、塩分の過剰摂取はさまざまな疾病の原因となります。そこで、おいしさと健康を両立できる可能性のある食用塩として開発されたのが、アミノ酸ハイブリット型食塩です。アミノ酸ハイブリット型食塩は、地下海水が沿岸の海底から湧き出す海水性湧水である「海底湧海水」をじっくりと焚き上げることによって得ることができます。特徴として、精製塩と比較してNaClが25%少なく、カリウムやマグネシウムは海水の組成とほぼ同程度で、ほのかなうま味を有するといわれています。

本研究では、このアミノ酸ハイブリッド型食塩が発酵食品の成分組成や生物活性プロファイルに与える影響を明らかにするために、3種類の塩(精製塩、アミノ酸ハイブリッド型食塩、精製塩+アミノ酸ハイブリッド型食塩)を用いて麦味噌サンプルを製造した。それぞれの味噌サンプルに関して、LC-MS分析によりメタボローム解析とヒストン修飾調節活性試験を行い、プロファイリング変化を解析しました。

LC-MS分析データの主成分分析では、機能性成分が多く含まれることが期待される70%MeOHの溶出画分において試料間で成分のばらつきがみられ、塩の種類により味噌の機能性が変化する可能性が示唆されました。また、イオンピークの階層的クラスタリング解析も主成分分析と同様の結果でした。

味噌サンプルのクラスタリング解析結果の画像
味噌サンプルのクラスタリング解析結果(図提供:中尾洋一先生より)

また、「血管内皮細胞株EA.hy926」に対するヒストン修飾調節活性試験の結果、精製塩+アミノ酸ハイブリッド型食塩を用いて製造した麦味噌では弱いながらも影響が確認されました。今後は変化を引き起す成分の生成・同定および味噌の新たな機能性の解明が期待されます。

<参考文献>
1)
助成研究報告書「2023年度助成研究報告集Ⅱ 医学・食品科学編 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団(2025年3月発行)」より
2)
中村文彬,坂本匠,鳥居文子,新井章吾,吉村博,重岡敬之,中尾洋一, 海底湧海水塩を使った味噌作り, Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn., 74, 76 - 80(2020)

■アミノ酸ハイブリッド型食塩を用いた塩焙煎コーヒー豆中の成分およびヒストン修飾プロファイルの解析
(2024年度助成、早稲田大学理工学術院先進理工学研究科 助教 神平梨絵)

コーヒーにはポリフェノールの一種であるクロロゲン酸の抗酸化作用や脂肪の蓄積を抑える効果などの機能性が報告されており、コーヒーの摂取による健康増進効果が期待されています。また「塩焙煎コーヒー豆」は、焙煎する前の生豆をアミノ酸ハイブリッド型食塩の原料である海底湧海水を用いて研ぎ、浸し、洗い流すことなく天日干しを経て、焙煎されたものです。この豆で淹れたコーヒーの味わいは、苦味や酸味が控えめですっきりしているといわれています。

本研究では、海底湧海水を用いた塩焙煎がコーヒー中の成分およびヒストン修飾プロファイル変化に及ぼす影響を検討しました。LC-MS/MS分析の結果、データベース情報の不足から化合物推定が可能な成分は4種類であり、苦味成分の一種であるトリゴネリンが海底湧海水を用いた塩焙煎において減少する傾向が示されました。また、蛍光顕微鏡観察を用いて、ヒト子宮頸がん細胞由来の細胞株である「HeLa細胞」に対するヒストン修飾調節活性試験を実施。その結果、プロファイリング変化が観察されましたが、再現性は得られませんでした。

今後、海底湧海水を用いた塩焙煎コーヒー豆で淹れたコーヒーの味わいを科学的に明らかにするためには、まず味わいに影響する成分を同定する必要があります。そのうえで、味覚などの五感を用いた官能評価によって味わいを数値化するなど、味の特徴を客観的に証明することが期待されます。

<参考文献>
1)
助成研究報告書「2024年度助成研究報告集Ⅱ 医学・食品科学編 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団(2026年3月発行)」より

2 新規技術を用いた食品製造における食塩活用に関する研究

■野菜への塩味付与に真空包装処理を利用した新規調理法に関する研究
(2023年度助成、大妻女子大学家政学部食物学科 教授 大田原美保)

食品の保存や真空低温調理の工程で利用される真空包装は、内容物の充填時に容器から空気を吸引して密封し、物品の変質などを防止することを目的とする包装です。包装容器には、酸素や水蒸気などを通しにくいガスバリア性の優れた材料が用いられています。

真空包装の一種であるチャンバー式真空包装機による包装では、専用の袋に食品のみあるいは調味液を加えてセットすると、チャンバー(包装機内の空間)と袋内の空気が吸引され、ほぼ真空(真空度99.9%)に達した段階で袋が密閉された後、チャンバー内が常圧に戻ることで包装が完了します。真空包装処理では袋内で圧力勾配が生じるため、食品を液体に浸漬した状態で減圧することで、食品の空隙に存在する気体が膨張してその一部が食品から放出します。常圧に戻る際には、空隙に残存していた気体が急激に収縮すると同時に外液が食品内部に侵入、調味できると推察されます。

真空包装処理における生野菜への調味液浸入過程の模式図の画像
真空包装処理における生野菜への調味液浸入過程の模式図(図提供:大田原美保先生より)

これらを踏まえた野菜浅漬けの調理法では、生野菜の組織内に空隙があればチャンバー式真空包装機を用いた包装処理により調味液が生野菜の空隙に侵入し、短時間で調味できることが示唆され、これまでとは異なるテクスチャー(食感)の浅漬け様食品の開発につながると考えられます。

本研究では、生野菜(ダイコン、ナス、カブ、キュウリ)を試料とし、成型した試料を食塩水とともに専用袋に入れ真空処理を行いました。研究の過程では、経時的に試料をサンプリングして、包装処理前後の試料質量、一軸圧縮試験による力学特性、電位差滴定装置によるNaCl濃度、調味液侵入に有効な試料内部の空隙の割合を測定。さらに、共焦点レーザー顕微鏡およびX線CTスキャンによる組織観察を実施しました。比較対象は、ポリエチレン製袋に試料とNaCl水溶液を入れ常圧下で空気を抜いたもの(以降、常圧包装処理)。

その結果、ダイコン試料に真空包装処理を行うと、1.5%食塩水を用いた場合でも、常圧包装処理を行った試料で観察された質量減少が抑えられました。組織観察により、食塩水がダイコン細胞の空隙に浸入していることが確認され、真空包装処理は常圧包装処理よりも塩味の付与効果が高い結果となりました。また、3%食塩水を用いたダイコンの真空包装処理試料は、短時間で調味が可能となり、従来の浅漬けより張りのあるテクスチャーを有しました。一方、試料内部に占める空隙の割合がダイコンとは異なるナス、カブ、キュウリでは、真空包装処理による塩味付与効果に違いがみられたことから、試料内部の空隙の割合が真空包装処理による塩味付与の有効性に影響を与えることが示されました。

通常の野菜浅漬けでは、食塩を加えた調味液に浸漬して生野菜を高張液下におくことで、細胞膜を損傷させ、半透性を消失させてから拡散によって調味成分を食品内部に付与します。本研究では、真空包装処理によって細胞膜の半透性消失を伴うことなく生野菜への塩味付与を可能とし、通常の浅漬けより張りのあるテクスチャーを有する浅漬け様食品創出の有用性を示しました。

<参考文献>
1)
助成研究報告書「2023年度助成研究報告集Ⅱ 医学・食品科学編 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団(2025年3月発行)」より
2)
熊谷美智世, 北辻香里,大田原美保 (2025),真空包装を利用した生野菜への調味効果と空隙状態との関連性について, 日本食品科学工学会誌 ,72 (7), 247–255 doi: 10.3136/nskkk.NSKKK-D-24-00099
3)
熊谷美智世, 北辻香里,大田原美保(2025),調味液との真空包装処理が生野菜の味とテクスチャーに及ぼす影響,日本食品科学工学会誌, 72 (9), 339–346 doi: 10.3136/nskkk.NSKKK-D-25-00005

■パルス電界処理が魚肉の食塩浸透および食感に及ぼす影響
(2024年度助成、東京大学大学院農学生命科学研究科 助教 小南友里)

パルス電界技術(pulsed electric field)は、ごく短時間に強い電界を印加することによって細胞に細孔を作り、細胞内外の物質移動を促す非加熱処理です。食品の風味や色、栄養素への影響を最小限に抑える食品加工技術として注目されており、塩漬けや酢漬けなどの生食用の魚肉加工にも利用できると考えられます。

本研究では、パルス電界処理による魚肉の調味プロセスの制御および簡易化を目指して、パルス電界処理が生鮮魚肉のテクスチャー(食感)、組織構造および食塩浸透速度に及ぼす影響を検討しました。まず、印加する電圧のパルス幅を10μs、周波数10Hz、両極性、グロスタイム2.5s/ 50pulsesを固定条件として、パルス強度の最適化を検討した結果、試料に用いた海水養殖ニジマスの肉にはパルス強度0.125kV/mmを採用しました。パルス処理したニジマスの中心温度は、パルス回数(0~300)に依存した一次関数的に上昇しましたが、パルス回数300での中心温度の上昇は平均6℃に抑えられていました。一方、テクスチャーや組織構造は無処理と顕著な違いが認められませんでした。パルス回数300でのニジマスへの食塩浸透速度を無処理と比較した結果、10%食塩溶液への浸漬では、浸漬開始後120分以降で無処理よりも食塩濃度が上昇しました。

本研究では、パルス電界処理時のパラメータの最適化により生鮮魚肉のテクスチャーを損なうことなく、食塩などの調味物質の拡散速度を促進する可能性を示しました。塩漬けにより魚肉のテクスチャーは変化するため、食塩溶液浸漬後のテクスチャーに及ぼすパルス電界処理の影響や魚肉を生食する際の一般生菌数など、微生物学的データが今後補充されることを期待しています。

<参考文献>
1)
助成研究報告書「2024年度助成研究報告集Ⅱ 医学・食品科学編 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団(2026年3月発行)」より

■減塩食品及び食塩を用いた調理・加工におけるオゾン含有ウルトラファインバブル水の有効性の検討
(2024年~2026年度助成、新潟大学農学部農学科 准教授 筒浦さとみ)

ウルトラファインバブルは直径1μm未満の目視できない超微小な泡です。特徴としては、周囲の分子と衝突して不規則に動く「ブラウン運動」の影響を強く受ける一方、静止した水中においてはほぼ浮上せず、泡は安定的に存在します。気体をウルトラファインバブル化すると、液体中に多量の気体を溶かすことができます。また、ウルトラファインバブルにオゾンガスを混入した「オゾン含有ウルトラファインバブル水」には、強力な殺菌能力と有機物分解能力が期待されています。ウルトラファインバブルの活用は洗浄分野では活発に実施されていますが、新しい技術であるオゾン含有ウルトラファインバブル水については、食品中での微生物殺菌効果や調理特性に関して調べられていません。

本研究では、減塩食品や食塩を利用した調理・加工におけるオゾン含有ウルトラファインバブル水を用いた最新の非加熱殺菌技術の有効性を明らかにする取り組みです。原材料の微生物汚染に対して加熱殺菌を使用できない浅漬けなどを対象に、初期における微生物の汚染低減効果や保存中の微生物抑制効果を検討しています。

野菜洗浄後の汚染菌の減少の画像
野菜洗浄後の汚染菌の減少(写真提供:筒浦さとみ先生より)

研究成果が、最新技術を用いた減塩食品の創造・開発、保存性向上による食品ロス削減につながることを目指しています。

<参考文献>
1)
助成研究報告書「2024年度助成研究報告集Ⅱ 医学・食品科学編 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団(2026年3月発行)」より
2)
久保和弘,シリーズ 研究の動向 44 ファインバブルの機能特性,日本家政学会誌,71,2,124-128(2020)

3 塩類を活用する食品製造の最適化や効率化につながる研究

■最適凝固剤量の即時フィードバックを実現する豆乳凝固過程のリアルタイムモニタリング
(2025年度助成、新潟大学自然科学系農学部 助教 斎藤嘉人)

日本の豆腐産業では、豆乳プラントや自動凝固成型機など先端技術を世界に先駆けて開発されてきました。しかし、にがりをはじめとした凝固剤添加による凝固反応速度は極めて速く、凝固の制御は未だ職人の経験と勘に依存しているところが大きく、1日で数十万丁もの豆腐が廃棄されることもあるそうです。近年は、環境負荷低減の観点から食品ロス削減への取り組みが強く求められ、かつ人口減少に伴う後継者不足を見越し生産工程の省人化が急務になっています。これらの課題に対応するためにも、職人の経験と勘を継承するとともに、豆腐凝固反応に応じたパラメータ可変型の凝固剤添加量制御といった新しい技術の導入が必須です。その実現のため、凝固剤の再添加が可能な凝固剤添加後「2分以内」の凝固反応を計測し、凝固条件にリアルタイムで連動させる計測手法が求められています。

本研究では、最適凝固剤量の即時フィードバックへの応用に向け、豆腐に光を当て計測する研究に取り組んでいます。研究に採用した空間分解拡散散乱法(SRDR法)は、蛍光と散乱を同時測定することにより、短時間かつ非接触で凝固過程を計測することが可能となります。

レーザ光学系を用い豆腐の凝固過程を光で測っている様子の画像
レーザ光学系を用い豆腐の凝固過程を光で測っている様子(写真提供:斎藤嘉人先生より)

こうした新たな“蛍光多重散乱光学系”を用いた豆乳凝固過程のリアルタイムモニタリング手法の確立は、光センシングによる自動豆乳凝固制御システムの実装を可能にするだけでなく、豆腐産業における持続可能な製造プロセスの構築に寄与します。

<参考文献>
1)
Takumi Murai, Kenta Itakura, Riku Miyakawa, Sota Kudo, Kosuke Muraishi, Kenzou Kanai, Yoshito Saito: Development of a viscosity prediction method for the soymilk coagulation process using laser scattering images and deep learning, Intelligence, Informatics and Infrastructure, 6(3), 103-119, 2025
2)
Yoshito SAITO, Tetsuhito SUZUKI, Naoshi KONDO: Evaluation of optical properties of tofu samples produced with different coagulation temperatures and times using near-infrared transmission spectroscopy, Infrared Physics & Technology, 123, 104149, 2022

4 食品製造分野における塩類活用に関する研究について
   レビューワー 元大妻女子大学大学院教授 松本美鈴

食品の基本的特性は、「安全性」「栄養性」「嗜好性」です。食品は、栄養素を供給し、安全に、おいしく食べることができなければなりません。1980年代には、食品の新しい特性として「機能性」という概念が日本で誕生しました。そして現代では、消費者の健康意識の高まりとともに、疾病の予防や健康の維持・増進といった生体調整の機能性を強化した食品の開発が積極的に行われています。ソルト・サイエンス研究財団にこれまで申請された研究には、食品製造(調理・加工)や保存などにおける食品の「安全性」「栄養性」「嗜好性」「機能性」に関わる塩類の活用を趣旨としている研究が多くみられます。

食生活に関わる現代的課題の一つは食料危機です。温室効果ガス排出増加による地球温暖化にともなう気候変動による自然災害の発生などの諸現象は、生態系の変化や農作物の不良低下につながり、食料生産能力に影響します。こうした背景を鑑みるに、食品製造・保存過程における温室効果ガス削減や食品ロスなど環境負荷低減につながる塩類の活用に関する研究、バイオテクノロジーをはじめとする最新テクノロジーを駆使した新しい食品素材の開発に関わる塩類の効果に関する研究などの申請も今後増加すると思われます。

ソルト・サイエンス研究財団は、持続的に健康で豊かな食生活を送るうえで役立つ塩類の作用を明らかにする研究を、これからも積極的に助成していくと思います。

プロフィール
松本美鈴先生は、長年にわたり大学で教育・研究に携わり、調理科学を中心に食材のテクスチャー変化などに関する多くの研究成果を発表されました。これまでのご研究とご活動を通じて、食品科学の発展に大きく貢献されてきました。
主な経歴
1978年3月 お茶の水女子大学家政学部卒業
1981年3月 お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了
1992年3月 東京水産大学大学院水産学研究科博士後期課程修了
1999年4月 青山学院女子短期大学家政学科助教授
2010年4月 大妻女子大学家政学部 教授
2021年3月 大妻女子大学 退職